- 2024/11/25
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現場仕事と仲間のこととか、たまにイデオロギー的なことをつれづれに。 読んだ本、すきな音楽やライブのことだとか。 脈絡無く戯言を書き殴る為の、徒然草。 【2018年、34歳で癌告知受けました。闘病記録つけます】
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小説を書きたい、今日この頃。
とはいっても、また例のごとく丸っと1年間くらい書かなかったもんだから、文章力が鈍っているわけです。そう、もともと大した文才もないんですが、それが更にね。
ということで、文章リハビリのための短編ものがたりを、またもうひとつ書いてみます。(懲りないね・・・どうせ途中で挫折する癖に。)←今回ばかりは本気で頑張ります!
今回のお話はまたまた年齢層が下がって、主人公15歳。
しょっぱなからかましちゃってますが、サワムラの好みはこういう設定ではないんですよ。ってことをとりあえず最初に言っておかなければ。
このシチュエーション、少女漫画にすごーくありがちで、溢れすぎてて反吐が出るわ!ペッ!ってなりそうですし、自分でもそう思いますが、本当に書きたいのはそこじゃないので。
出来れば根気よく読んでください。(笑)
このお話は、東日本大震災で家族の絆を見つめ直した仙台出身の友人から聞いた実話エピソードを基に、この時の少年の立場を空想して描いた「どこにでもいる家族の、どんな家でも一つや二つは抱えている家庭事情」の物語です。
身近にいる年上の女の子をすきになるなんてのは、実によくある話だ。更にその子が優しくって逐一面倒見てくれて、物心つく前から一緒に過ごしてきた相手ともなると、いよいよヤバイ。意識し始めたのはいつだったかなんて覚えちゃいない。いや、違うな。意識してるんじゃなくって、むしろ無意識なんだよ。無意識に、自然に、すきなわけ。そりゃもう、言ってしまえば生まれた時から一緒に過ごしてきてるわけだから。ご飯もお風呂も睡眠も、みんな一緒に過ごしてきてるわけだかんね。俺はこのままずっと、一生カエちゃんと一緒に暮らすんだって。大人になったらカエちゃんをお嫁さんに貰うんだって。
だから疑ってもみなかったんよ。あの日、あんなこと言われるなんて。
「前から言わなきゃなー、とは思ってたけど。あたしとあんたは結婚できないんだよ」
困ってるわけでもなく、怒ってるわけでもなく。幼い子供に言って聞かせるようにカエちゃんは言った。俺の目をまっすぐに見て。
「何で。カエちゃん、俺のことキライんなった、」
突拍子もない話題に面喰って、きょとんとなった。あした仙台駅から上京する荷物をまとめていたカエちゃんの手が止まる。
「キライとかスキとか、そういう問題じゃないのよ。ユーリは、あたしの弟なんだから」
言ってる意味、判る。と覗き込まれる。いつもは黒くて細い目が、くるりと開かれていて案外大きいんだなって思う。
「うん。そだね」
そうやって上の空の返事をしたのが、ちょうど一年くらい前。
「膝持くんって、どんな女の子が好み、」
昼休み。教室でファッション雑誌を捲りながらきゃっきゃと騒いでいた女の子たちから声がかかった。レモンティーの紙パックに挿したストローでずっとベコベコ鳴らしていたのを止める。で、どれどれ、と彼女たちの捲る雑誌を覗き込んだ。見出しに、この春を乗り切る春カワコーデ、という字が躍り、薄いオリーブ色の髪をした小柄な女の子がトップページを飾っている。彼女の隣には、水谷嘉永が選ぶ着回し5枚、という文字。
「やっぱりな」
呆れたような眼差しを向けた亮作が、背後から覗き込む。
「何が」
「カエちゃんでしょ。どーせカエちゃんが一番なんでしょ」
亮作の声はまるで棒読みだ。雑誌の持ち主の伊藤さんが顔を上げる。
「それって、水谷嘉永ちゃんみたいな、って意味、」
「男の子でもモアの専属モデルさん知ってるんだ」
「カエちゃん小さいけど目はシャープで独特のモデルさんだよねー」
女の子たちに口々に驚かれる。でも違うんだな。俺はチラリと亮作を見てから、にっこりと笑う。
「そうだねぇ。って言いたい所だけど、俺めっちゃ姉ちゃんスキみたいになるから、やめとこっかな」
「なにそれー」
「嘉永ちゃんに似てるの、膝持くんのお姉さん」
「似てるっていうか、本人だよ」
「コイツの姉ちゃんだからね、この人」
うそっ、すごーい。人気モデルじゃん。ずいぶん年離れてるんだね。いくつ。ていうか苗字違うね。お姉さん芸名、それとも結婚してるの。
案の定、質問の嵐になったけど、どれも不正解。芸名でもないし、結婚もしてない。みんな決まって不思議そうな顔をするけれど、俺とカエちゃんは生まれた時からずっとこの名前なんだから。何で、って聞かれたら、こう答えるしかない。
だって俺とカエちゃん、血は繋がってないからね。
.
姉の名前は水谷嘉永。俺より九つ年上の、二十四歳。去年から地元を離れ、アパレルブランドのデザイナーをしながら自社のSサイズモデルをしてる。
そして俺は、膝持右理。十五歳。普通科の高校一年生。中二になるまで本気で姉と結婚しようと思っていた程の、自他ともに認める重度のシスコン。思春期真っ只中でそれを認めてしまってはダメだろ、と亮作は言うけれど、そんなことはどうだっていいんだ。
看護師の母さんと弁護士の父さん、そしてカエちゃんという、ちょっと世間とズレてるのかもしんないけれど、どこにでもある、ありふれた四人家族。俺はそこで何不自由なく生まれ育って、結構仕合わせ者だと思うんだよね。
「お前ってすげーよなぁ」
帰り道。空っぽの通学カバンを跳ね上げながら、いつものごとく亮作が呟く。なにが。と返すと、隠さないところがだよ、と戻ってきた。
「何を隠すの」
「何をって。姉ちゃんと血が繋がってないこととか、母ちゃんと父ちゃんが結婚してないこととか、家族みんなの苗字がバラバラな事とかだよ」
人は、みんなが一緒だと思っている。一緒じゃなきゃいけないと思っている。そこからはみ出たものは異質と捉えられ、普通という枠組みから外される。普通じゃないものは、排除されがちだ。存在を認めてもらえない。っていうか、そもそも認識されない。
でもそれって、不自由だろうか。
俺はそんなこと気にしない。だって今までそれで問題が起きたことなんてひとつもなかったし、俺たち家族はこれでうまく回ってる。一つだけ心残りがあったとすれば、すきになった女の子が姉というポジションに収まってしまっていたこと、くらいかな。
亮作と別れて住宅街をしばらく行くと緑の瓦屋根が見えてきた。十五年間住んできた、三階建ての我が家。角を曲がると形ばかりの小さな門が見える。と思ったら、玄関の脇に誰か居た。
「どーしたの、モモ太くん」
モモ太くん、もとい石和百太は素早く顔を上げた。ちょっと厳つい顔付きだけど、いつも俺の顔を見たらふわっと軽い表情になる近所の兄ちゃん。でも今日は、ふわっとならなかった。
「ユーリ。お前に言っとかなきゃいけないことがある」
いつになく真剣な顔。少し目線の低いモモ太くんは上目遣いになって、ちょっと睨まれてるみたいだ。緊張してるのかもしれない。いや、文字通り、睨んでいたのか。
「俺、カエと結婚することになったから」
バサ、と何かが落ちた。あ。俺のカバンだ。え、何でモモ太くんと。てか何俺は動揺してんだ。
バカみてぇ。
《つづく》
※登場人物読み仮名
膝持右理(ひざもち・ゆうり) 水谷嘉永(みずたに・かえ) 石和百太(いさわ・ゆうた)