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現場仕事と仲間のこととか、たまにイデオロギー的なことをつれづれに。 読んだ本、すきな音楽やライブのことだとか。 脈絡無く戯言を書き殴る為の、徒然草。

straying

けど、何も感じない。
 声も出ない。やっぱり、こんなやり方じゃダメだったんだろうか。それとも、わたしの機能が枯れてしまっただけだろうか。相手が違ったら、気持ちよくなれただろうか。喩えばもっと経験豊富な、プロの方とかだったら。
「ごめんねぇ。反応出来んくて」
 わたしの胸に顔を埋めていたシュウジくんが、布団から頭を出す。
「声が出ぇへんってこと、」
「うん、まぁ」
「痛い、」
「痛くないよ」
「気持ちいい、」
「少しは」
「ならええよ。おれ、声出す子キライ。ずっとおっぱい触ってたいから」
 その言葉通り、彼はずっとわたしの胸を弄っていた。息も乱さず、出会った瞬間と同じ低めのテンションのままで。
 わたしが彼のことについて知っているのは、三つ。シュウジっていう名前と、年齢が二十五歳ってこと、あとは同郷出身者ってことだけ。それは、向こうも同じだ。名前と年齢と喋り方で判る、出身地。それ以外、何も知らないし、興味も無い。
「もう九時やで、そろそろ出よ」
 シャワーを浴び直して服を着替えた彼が、振り向きもせず言った。手には、鞄と部屋のキー。
「待って」
「ん、」
 振り返った彼の口端に、軽くキスをする。少し背伸びをして届く距離感が、ちょっといいな、と思う。すると急にシュウジくんの腕が伸びて来て、抱きすくめられた。貪るように、唇に吸い付かれる。舌先が差し込まれて、息を吐く間も与えられないくらいの、口付け。彼の、呼吸が乱れる。
「どうしたん、急に」
「だって、待って、って言われたから」
 にっと、彼が笑った。笑うと、年相応の無邪気な男の子に見える。
「朝ごはん、食べに行こっか」
「え、うん」
 ここで解散じゃ、ないんだ。予想を裏切られて、わたしは戸惑いながら彼の後を追った。なんか、ヘンな感じだ。朝の、新宿。大勢の人が行き交う中、わたしたちは手も繋がず歩く。駅前に見付けたカフェでモーニングを食べて、好きな小説の話をして、それから隣にあった本屋さんに入ると、彼はオススメしてくれたミステリーをふたつ買ってくれた。代わりにわたしも、昔読んだ好きな青春小説をふたつ買って交換する。
「きょうは、ありがとね」
「ありがとうなんて言われること、おれしてへんけど。ホテルだって奢って貰ったし」
「ええんよー。わたし、うんと年上なんやから」
 そう言って、彼の腕を叩く。人混みの中を歩いていると、JRの改札口まで来た。
「じゃあ、ここで。おれ、メトロだから」
「はぁい。じゃあね、バイバイ」
「気を付けて帰れよ、またな」
 またな、か。
 正直わたしは、もう会うつもりも無かったんだけど。向こうだって、たいして楽しんでる様子もなかったのに。別れ際の、社交辞令だろうか。男の子って、結構律儀なんだな。
 こんなことを言ったら、友人にはドン引きされるだろう。一緒に寝ても、キスをしても、ひとつも感情が動かないなんて、友達には知られたくない。わたしは、この冷めた感情回路をどうにかしたいのだ。
 恋がしたい。
 誰か、わたしの心と身体に火を点けて。そのための、まどろっこしい出会いの手順を踏まないから、いけないんだろうなと判っているけど。けど、もうそんな体力、残っていないの。こんな無意味なことを繰り返している内に、来週で三十五歳になってしまう。
 お手軽に出会っても、うんと若い子と一緒にいれば多少はときめきくらい得られるかと思ったのに。そんな感情、もう枯れてしまったみたいだ。
 いや、こんなことしてるから枯れてしまったのかもしれない。このまま、ときめきの感情が枯れてしまわないようにと思って始めたことなのに。本末転倒だ。お手軽なものには、お手軽なときめきしか内在していないっていう、証明なのかもしれない。でも、やっぱりいつかは。



 恋がしたい。

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