2014/06/09 Category : 塗装工場の愉快な日々 恋の話をしようか。 日曜日のがらんどうの居酒屋で、30女と28男のひと組の客が喋る。 「で。気付いたら朝になってたってわけですか?」 「違う。すぐ起きたの。エッチはしてないから」 「でも朝まで一緒に寝たんでしょ?」 「まぁ、そーゆうことになるな」 「そりゃあなたが悪いですよ。どこを取っても勘違いさせる要素出してんのアナタですからね」 「やっぱそう?」 「ハイ」 「あーそうさ!あたしが全面的に悪いよ!悪いのはぜんぶあたし!これで満足か?」 「だって沢村さんが悪いでしょ。どう考えても」 「・・・そーだね。」 「中々面白いコトしてますね」 「面白くねーよ!笑うな!」 「沢村さんって、ズレてますね」 「でもたぶん、あたしだって彼のこと、ちょっと好きだったんよ。じゃないと流石に一緒にいないっしょ。」 「そーですねぇ」 「お前のことだってすきだよ」 「すきって言われたら嬉しいですね、やっぱり」 「やろ?」 「ってことに、最近気付きました」 「ん?」 「・・・すきな女の子に、すきって言われたんです」 「おお?!やったやん!」 「でも、フラれたんすよ。遠距離レンアイは出来ないって」 「あー・・・。もっと積極的になれよ。お前は押しが弱いんや」 「積極的に頑張りましたよ!手だって繋いだし、一緒に公園散歩したりして、いい年こいてブランコ乗ったりしたんすよ!」 「判るわー、その気持ち。青春だねぇ」 「もう29ですケドね」 「ま、あたしは全ての手順をぶっ飛ばしたけどね」 「そして何も得ないっていう」 「そうそう。でもね、あたしは手を繋ぐのは一番最後に取っておきたいの。キスやセックスよりも後に」 「ふつう逆ですよね」 「だって、セックスなんて金払えばお店で出来ちゃうわけでしょ。性欲さえあれば誰とでも出来るわけよ。唇だけは守る嬢もいるけど、キスだってオプション料金払えば出来ちゃうわけだし」 「まぁ、そーですね」 「でも、手を繋ごうとは思わないでしょ?」 「・・・そー言われてみれば、そうかも。」 「ほら。だって、目は口ほどに語る、って言うけど、手はもっと気持ちを語ってしまうもんだと思うワケ。体温だって伝わるし、少し緊張して汗ばんだ手、優しく握った握力、ふいにビクッとして力がこもった瞬間。そーゆう機微が、ぜんぶ伝わるんよ?」 「・・・やっぱり沢村さんって、ズレてますよ」 「うん、知ってる。でも、そーいうお前だってあたしのことも、すきなんやろ」 「・・・は?」 「じゃあ嫌いなわけ?」 「キライじゃないですけど・・・」 「じゃあやっぱりすきなんだよ。じゃないと、何年も一緒にいないっしょ」 「それは、そうですね」 「で。四国、いつ行こうか」 「いつでもいいっすよ」 「日帰り?」 「どっちでも。休み合わせますよ」 「彼女、もうちっと押せば落ちると思うんだけどなー。頑張れよ」 「そー思います?」 「男は多少強引なくらいでちょうどいいんだって!」 「あの子はアナタとはだいぶタイプが違います」 「そりゃそーや。でもすきなんやろ?このまま平行線辿っててええんか?もっと頑張れよ」 「・・・そのほうが、後悔しないかもしれませんね。当たって砕ければ、踏ん切りがつくのかもしれません」 「そーだそーだ!」 「そうですね・・・!」 「喩えばいまあたしがアンタに口説かれたら、ひとまず面食らって断るかもしんないけど、絶対心動かされるから!だって、そーいう出来事が起きたら、相手のこと真面目に考えてみる機会が生まれるわけだかんね」 「そうですね!オレ、頑張ります!!」 嵐のような5月が過ぎ去り。 梅雨になった。 これは、日常に戻った証拠だ。 でも、ちょっとだけ、こころが近付いたのかもしんない。 ゆるやかに、ゆるやかに。 奇妙な腐れ縁と信頼関係で結ばれた、ちぐはぐすぎるふたりの、ある夜の会話。 PR Comment0 Comment Comment Form お名前name タイトルtitle メールアドレスmail address URLurl コメントcomment パスワードpassword