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りそうのせかい改

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『吠えても届かない』(映画)

気になる映画が再演されていたので、今日は仕事終わりに初めて十三のシアターセブンに行ってきました。
いつも観に行く映画館・第七芸術劇場の1つ下の階にある、3年ほど前に出来た新しい劇場です。




吠えても届かない
2013年/日本/80分 監督・脚本:マツムラケンゾー

世間知らずの青年が、外の世界に眼を向けた時に眼にしたのは、理不尽、不条理がまかり通る現代社会の歪みだった。
青年・佑司は、道重が経営する居酒屋で働くアルバイト。職場でも私生活でも、外部との接触を極力避けて暮らしていた……
が、ある日、犬を拾った事をキッカケに、紗季という女性と出会う。幼い頃に亡くした自分の母親を思わせる紗季に、母性に飢えながら育った佑司は惹かれていった。 だが、紗季の未来は暗く重い運命に塞がれていて……。佑司の運命をも狂わせて行き、暴力と恐怖に支配される社会の理不尽、不条理に直面する。



観終わった後、いろいろと考えさせられた映画は久しぶりな気がします。(以降、ネタバレ注意)

この映画は、二十歳そこそこの少年・ユウジを主人公に添えて物語が進んでいきます。
(「少年」と敢えて表現するのは、彼が年相応な大人ではないからです)
そして物語の序盤で出会った母親くらいの年齢差のある女性・サキと、犬を通じて仲良くなり、彼は恋愛感情を抱きます。そしてふたりは徐々に距離を縮めていき・・・

タイトルに「吠えても」ともあるし、キーマン的役割で犬も出て来るし、このふたりの物語なのかな?と一瞬思ってしまいますが、実は全然違うということに物語が中盤に差し掛かったころ気付かされます。


道路の片隅に捨てられた犬。
何を言っているのかサッパリ判らない職場のオーナー。
突然倒れる新人料理長。
余命宣告を受けた年増美人の苦悩。
親子ほどの年の差の男女の淡い恋。
逃亡中の殺人犯。
インチキ商品を売りつけることを目的に恋人のふりをして近付く業者の男。
迫りくる警官。
復讐の機会を狙うやくざ。

目に映るものは、本当の姿とは限らない。
この映画では、登場人物の第一印象と本当の人物設定をことごとく裏切ることで、それを観客に判らせてくれます。
世の中は、自分が思っているよりももっと複雑で、不条理な世界に満ちている。
そして、だれもが自分に正直に正しく生きようとしているだけなのに、歯車はどんどんずれて行って修正のしようが無くなるとこまで追いつめられる。

主人公・ユウジは妾腹として生まれ幼くして母に先立たれた辛い生い立ちを持っていますが、立派な分譲マンションの一室を父親から与えられ仕送りを貰いアルバイトだけで生計を立てているような、はた目から見れば世間知らずの坊ちゃんです。
そのことを指摘してくれるのは、サキ。
あなたは不幸なんかじゃないでしょ、というようなことを言われます。
これを見て、私もハッとするものがありました。
はたから見れば、自分は、自分の発言は、どう見えているのか。見られてしまうのか。
客観的に見るのは難しいけれど、いろんな角度の視線を切り取るように描いているこの物語を見ていると、自分の姿を一度客観的に見てみることの大切さも教えてくれるような気がします。

ユウジは人を疑うことを知らず正しいものを貫こうとしただけなのに、それは残酷な刃となって大切なサキのこころを切り裂いてしまいます。

悪者だと思っていた殺人犯は案外いいヤツだったり、警察だと思っていた張り込みの奴らは実際は復讐者だったり、かと思えば命の恩人だと言い出したり。
何を信じればいいのか? 誰が正しいのか?
それを判断するのは自分自身でしかなくて、真実はいつも見かけ上の裏側にあるものなのかもしれません・・・

映画は静かに進みます。静かに、無情に時間は流れていきます。
青春映画っぽく、誰も泣き叫んだりしません。


そう。
叫んでも、幸せに辿り着けないのです。




あのラストは観客側には投げかけたまま終わりましたけど、主人公のユウジから見るとある一定の完結はしています。
どうしようもない不条理の中でもがき続ける大人たちのついた、小さな嘘に救われて。


個人的には、かなり斜め上を行っている居酒屋のオーナー役の佐藤二朗さんの怪演と、ぜんぜん吠えない愛らしいフレンチブルドッグのボンピレオが画面上の癒しを与えるという両極端で、物語全編に彩りを添えていると思いました。(笑)



ボンちゃんが最後、変わらずユウジの側にい続けてくれてよかった。
少し、心が救われました。





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