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りそうのせかい改

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スコ────ル

・・・ほんとに飽き性ですね。
前書きかけの文章の続き書けよ。って感じですが、感化されやすいという意味で今回はひとつ。

理想の出会い方、理想の相手って、誰しもありますよね?
サワムラの、理想のアイテムや出会い方や相手の肩書きなんかを詰め込んだお話をひとつ、書いてみたいと思います。
一応、殆ど実体験のお話なんですよ。(10年前、2年前、今年の出来事8割+妄想2割)
人物と順番は入れ替えてますけれど。



*   *   *   *


 昼間の熱気が抜けない六月の部屋の中。
 寝苦しい、でもまだもうちょっと時間がある、出勤ぎりぎりまで寝ていたい。なんて思いながら布団に転がっていたが、なんだか外の様子がいつもと違う。天気はいいハズなのになんとなく窓は薄暗いし、ガサガサ、ゴトゴト、サラサラ、と音が響く。おまけにさっきからずっと聞こえている大きな声。コーキ、六番の塗料取ってこい、次こっちや、マスカーやってくれ、コーキ、筋交いや、コーキ、コーキ。
 聞き覚えのある用語が聞こえる。まだ家に居るっていうのに。それにコーキって何だろう。やたら頻繁に出てきてるけど。そういえばうちの甥っ子も光希っていうっけ。あぁ、もしかして名前か。
 と思って起き上がり窓の外に目をやると、半透明のビニールでアパートがラッピングされ、昨日はなかった足場が外壁に張りめぐされていた。そういえば、今日からアパートの補修工事と塗装塗り替えが始まるって案内が新聞受けに入ってたっけ。しばらく洗濯物外に干せないな。二週間、いや、三週間だったっけ。ベランダの塗り直し自体は最初の一週間で終わるらしいけど、足場が外されるのはぜんぶが終わる三週間後だから、防犯上の問題でベランダのドアには鍵を掛けて、洗濯物は外に干さないでください。って注意事項に書いてた気がする。
 ベランダのドアを開けると、既に薄いビニールが洗濯機に掛けられ、養生テープで固定されていた。隣の家の洗濯機も、そのまた隣の家の植木鉢や屋外物置も、同じようにビニールで丁寧にラッピングされている。と、視線を落とすとむき出しになっているエアコンの室外機があった。塗装前のビニールでの養生作業は見る限り終わっている。これは、もしかしなくても、忘れられてるんじゃないだろうか。
 
 少し遅い昼食を済ませ、夜勤の弁当を詰めジェットヘルのメットを腕に掛けて玄関のドアを開けると、そこは一面ビニールの世界になっていた。
 半透明の薄っぺらい養生用のビニールに覆われた昭和のボロアパートが生まれ変わる。壁一面に張り巡らされたビニールが、風に靡いて静かに音を立てる。足元にも敷き詰められたビニールが歩くたびにしゃりしゃりと鳴る。初夏の日差しを遮っていてなんだか涼しげだ。何かに似ているな、と思ったら水の流れる音に似ているのかもしれない。
 少し感慨深い思いに浸ってみたが、出勤前。そんなに余裕はない。塗装が始まってしまう前に、早く業者の人を捕まえて養生の手直しのお願いをしなくては。
 二階建てアパートの階段を降りると、傍の駐車スペースのブロックに腰掛けて缶コーヒーを飲みながら一服している少年がいた。作業服のズボン、黒いTシャツに、タオルを頭に巻いている。
「あの、」
 近づいて行って声を掛けると、彼はびっくりした表情で顔を上げた。住民に声を掛けられたのが想定外だったのだろう。いや、駐車場で休憩していたことを咎められると思ったのかもしれない。言葉を発する前に、まだ火を点けたばかりであろうタバコをコーヒーの缶の中に潰して入れた。
「うちのベランダの室外機、養生されてなかったんで、マスカー引いといて貰えますか」
 彼の目が点になった。そりゃそうだ。まさかアパートの住人に作業指示をされる日が来るなんて、夢にも思わない。年の頃、十六、七といったところか。体格は少し細身だけど中肉中背、タバコなんて吸ってるけど、まだ少年の面影の残る幼い顔つきをしている。丸くなった薄い一重の彼の目が、ようやく元に戻る。
「判りました。大将に伝えときます。あの、部屋番は何処ですか、」
「B棟の二〇八号室。お仕事頑張ってね、コウキくん」
「えっ・・・」
 二百五十ccのオフ車仕様のストリートバイクに跨った彼女は、そう言い残してアパートを後にした。面食らった表情で見送る、塗装工の青年を残して。
 


<つづく>

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